『旅の絵本』でも有名な作家、安野光雅さんによる数学の絵本です。
安野さんにとって『ふしぎなたね』の物語は 現実の世界とよく似ている と思わずつぶやく内容なのです。
食をテーマにした 数学を楽しく学べる絵本
『ふしぎなたね』は数学の絵本として刊行されていたシリーズの最終巻にあたります。他のシリーズの絵本は数学者が関わっていましたが、『ふしぎなたね』だけは安野さんが一人で製作されました。
数学の絵本でもあり、食の絵本でもあります。ストーリーを中心としているので、大人も楽しめる絵本です。

怠け者の男の人生を変える出会いとは
主人公である怠け者の男は、仙人からふしぎなたねを2個もらいました。
絵本には「ふしぎなたね」がよく登場しますが、その効果はさまざまでカンタンに予想があたらない意外性を持っています。『ふしぎなたね』に登場する種には、「この種があれば世界の食料問題は解決するのでは?」と思うような効果がありました。
男は仙人からいわれた通りに種を埋めて栽培し、収穫を繰り返していました。そんなあるとき、男はいつもの仕事に ふと思いついたある工夫 を加えてみることにしたのです。
冒頭で男は怠け者だと紹介されていました。けれども男は、何年も仙人のいいつけを守って種を栽培しているので、自分の仕事はきっちりこなすタイプだったのかもしれませんね。
男が思いついた工夫で種は以前よりも収穫量が増え、男の人生までもが変わっていきます。
人間の暮らしには種があった
安野さんは『ふしぎなたね』の世界は、現実の世界とよく似ているとつぶやかれています。
思えば人間は、農耕社会で文化が発達しましたね。
日本人だと稲作を始めて、収穫した作物を保存するようになりました。食料を安定して手に入れられるようになったので、村はどんどん発展していきました。弥生時代をイメージできる仕組みですね。
さらに種なら、より長期保存が可能になります。
余った食料は商売に利用され、商売をするために計算をするようになります。食料と数学は思っていた以上に、昔から密接な関係だったのかもしれません。
ただ、食料が保存できるようになるとよいことばかりが起きるのではなく、種をめぐって争いが起きるようにもなります。
種によって人の暮らしは発展してきたのと同時に、争いも生じるようになった ところが、もしかしたら『ふしぎなたね』と現実の共通点かもしれません。
人の暮らしの基本はもしかしたら種にあるのかもしれない・・と思うようなストーリーでした。
男にとって人生を変えるきっかけは種だった
男は仙人からもらった種で人生が変わっていきますが、変えたきっかけは男自身が見つけた工夫でした。
人生を変えるためには、魔法のような種を持つことではなく、その種をどのように使うのかということのほうが大切なのかもしれません。
何度も読み返して深読みをしたくなる絵本が『ふしぎなたね』でした
