人生1 0 0 年
あなたはこの時間を長いと思いますか? それとも短いと思いますか?
100年間は1世紀分だと考えるならば、途方もなく長く感じられますが、最近は「人生100年」なんていわれるような長寿社会になってきました。
100歳まで生きたら、ドラえもんの世界のような近未来社会を目にすることができるのでしょうか?
未来のことはわかりませんが、今までの歴史を知っている大人ならわかる情報が隠れている絵本が『百年の家』でした。
家が見た激動の100年
『百年の家』の時代は1900年代です。
1900年からの100年間は2度の世界大戦によって、世界中の人々が暮らし方や生き方を大きく変えていった時代です。
今でもなお報道の特集などで当時の映像を見ることはあるものの、わたしたち20代にとっては経験したことのない時代ですね。
1900年からの百年間は、人々が大切にしてきたささやかな日常と、今までの価値観などがすべてひっくり返るような非日常に挟まれた「激動の時代」だったのではないかと想像します。
そんな激動の100年を生きていく人々を静かに見守り続けた家が、『百年の家』の主人公です。

美術館にいるような気分になる絵本
『百年の家』では人物はしゃべりません。一瞬を切り取ったかのように描かれた絵は、まるで美術館で絵画を見ているような気分になります。
絵本では登場人物たちと同じ目線で描かれる絵が多いですが、『百年の家』は家よりもさらに上のアングルで描写されています。そのためか、人物たちとの距離が遠く、絵の中の彼ら彼女らがどんな表情をしているか、ページをめくった瞬間ではうまく読み取れません。
ちょっと見ただけではわからないところが、ますます美術館にいるような気分にさせてくれます。
美術館では絵をじっくり見るには限界がありますが、『百年の家』は家で ゆったりとソファに腰掛けながら絵を眺める ことができます。
はじめは読み取れなかった人物の表情も何回か読んでいくうちに、ぼんやりと表情が浮かび上がってくるようになりました。少しずつ家の周りで起きた出来事をひも解いていくかのような楽しみ方のできる絵本です。
まるで美術鑑賞のような、大人だからできる読書ではないでしょうか?
家が語る戦争と暮らし
語るのは家に住む人々ではなく、家なのです。
家の視点からみた1900年から1999年までの100年間が、静かに語られています。
人は家がないと快適に過ごせませんし、家は人が住まないとすぐに傷んでしまいます。ある意味、人間にとっていちばん近くにいる存在 かもしれません。
人間の感情が入らず、家が淡々と歴史を語るからこそ、100年間に起きた出来事に重みを感じました。
当初、2回もの世界大戦を経験した1900年代を選ぶということは、戦争をテーマにした絵本なのかと想像していました。けれども2回の世界大戦ですら、今までの日常と同じように、あくまでひとつの歴史として淡々と語られていきます。
日常と同じように戦争について淡々と語っていく場面には、自分の体温が下がっていくような恐ろしさを感じます。
これからの100年で家は何を語るのか
100年は、家にとって人間が思うほど長くないのでしょう。だからこそ、淡々とした口調に2回の世界大戦が語られているところにまるで「またやっている」と思っているような印象があり、怖さを感じました。
『百年の家』は歴史や背景を知っている大人だからこそ、読み取れることの多い絵本です
